家電の消費電力に対してポータブル電源の定格出力が足りずに今回は使えなかった経験はありませんか?一部のポータブル電源には、定格出力は足りなくても動作させられる「定電圧機能」が搭載されています。今回は、そんな有能な「定電圧機能」についてです。
定電圧機能は、「X-Boost(EcoFlow)」「電力リフト(Bluetti)」「U-Turbo(UGREEN)」等、各社各様に呼称していますが、要するに、電源の定格出力を上回る消費電力の家電の電圧をさげて動作させることができる非常に有能な新技術です。
本記事にご訪問頂いた方の多くは「X-Boost」を検索して頂いた方ではないかと思います。これはEcoFlowのポータブル電源に採用されている『定電圧機能』の独自の呼称です。
X-Boost以外にも「電力リフト(Bluetti)」「U-Turbo(UGREEN)」、あるいは「定電圧機能(Eenour/VTOMAN)」など、各社各様の呼称で呼んでいますがどれもみな目的は同じ、『定格出力不足で使えないはずの家電を使えるようにする技術』です。
EcoFlowのX-Boostは本来使えない家電が使える技術
こちらはEcoFlowの「RIVER MAX」(初代)です。
EcoFlowでは、2020年秋に発売された「RIVER」シリーズから『X-Boost』(エックスブースト)と呼ばれる「定電圧機能」を搭載しました。それ以降のEcoFlowのポータブル電源には必ずといってよいほど搭載されるEcoFlowの看板機能になっています。
X-Boostをわかりやすく解説
ポータブル電源には「定格出力」といって、電源が安定的に出力し続けられる電力の上限が決まっています。一方、電気製品には「定格消費電力」といって、家電製品を正常に動作させるために必要な電力量が決まっています。
で、この2つの関係は必ず『電源側の定格出力が家電の消費電力を上回っていないと家電は動作しない』です。
簡単に書くと、
定格出力>定格消費電力
です。
上記の「RIVER Max」の定格出力は600Wですので、本来であれば601W以上の消費電力の家電は動かすことができません。もし無理に動かそうとしても「ウンともスンとも言わない」か、一瞬動いても「OvreLoad」と表示されて停止してしまいます。
ところが「RIVER Max」には『X-Boost』が搭載されているので、定格出力を超える消費電力の家電でも動作させることが可能です。
ただし、電圧を下げて動作させるので、動作時の実際の出力は定格出力以内になります。その場合、例えばお湯が沸く時間が延びるとか、電子レンジの温めに時間が余計にかかるなど、出力を抑えた分を時間でカバーするようなイメージです。
定格出力超の消費電力家電を使ってみる
例えば、筆者が常時車載している電子レンジ「山善YRL-F180」の消費電力800W/50Hzなので、定格出力600Wの「RIVER」では動かせないはずなんですが、「X-Boost」機能によって電子レンジの消費電力を600W以下に抑えて動作させることが可能です。
ポータブル電源を使っていると「あとちょっと」出力が足りずに家電が動かせない…なんて状況は珍しくありません。
特に1000W近辺は、製品の上位・下位グレードの分岐点になっているので、そんなことがよくあります。下位グレードの消費電力は800Wなのに上位グレードは1200Wになってしまって、定格1000W出力のポータブル電源では使えない等々のシチュエーションです。
そういった場面でも、X-Boostで最大1200Wまでの消費電力を600W以下に引き下げて動作させることができる「RIVER」シリーズは、「あとちょっとの出力不足」をなかった事にしてくれるスグレモノです。
こちらは、RIVER Maxで消費電力800Wの電子レンジを動作させた際の出力表示です。RIVER Maxの定格出力は600Wですので、それよりも低い485Wで電子レンジを動作させていることがわかります。
Bluettiの定電圧機能は「電力リフト」
X-Boostのような定電圧機能は、EcoFlowの専売特許ではありません。
こちらのBluetti「EB3A」は、2020年当時、RIVERシリーズがあまりに人気を博したため、Bluettiが対抗するために送り出したコンパクトクラスのポータブル電源です。スペックは驚くほどRIVERに拮抗していて、いかにBluettiがRIVERを意識していたかがよく分かります。
この「EB3A」にも、「X-Boost」と同様の定電圧機能が搭載されており、Bluettiでは「電力リフト」と呼称しています。
こちらは、EB3Aの電力リフトを利用して消費電力800Wの電子レンジを動作させた際の出力表示です。定格出力いっぱいの588Wを出力しています。
Bluettiでも定電圧は定番機能となっており、今年2023年に発売されたAC60/70/180の新世代ポータブル電源でも「電力リフト」が採用されています。
※AC60/B80、AC70、EB3Aを実機テストしています。そちらもご覧ください
定電圧機能は必要?必要ない?
実は「X-Boost」や「電力リフト」についてはユーザーの意見は分かれていて、賛否両論の状態です。
X-Boostはパワー不足で実用的ではない?
例えば、RIVERのX-Boost機能や、EB3Aの電力リフトを使って1000Wの電気ケトルでお湯を沸かす場合、本来の1000Wで加熱することはできないので定格出力以内の600W以内で加熱します。
出力を抑えているのですから、当然、お湯が沸く時間は長くかかってしまいます。
このことを捉えて「パワーが弱くて実用的ではない」と評する記事も少なくありませんが、筆者的には定電圧機能は「有能」と捉えています。
というのも、X-Boostや電力リフトは「実用性」の観点で見るべき機能ではないと思うからです。
出力があと少し足りなくて本来なら動かない家電を、電圧を下げて「辛うじて」動作させることができる、「曲がりなりにも」とか「辛うじて」使うことができることをメリットと捉えるべき機能だと思うのです。
例えば、大災害で停電になった際に、定格出力600Wのポータブル電源と消費電力1000Wの電気ケトルが手元にあった場合、本来ならその組み合わせではお湯は沸かせません。
けれど、もしその電源がRIVERやEB3Aであれば、定電圧機能の働きで、時間は多少かかるけれどお湯を沸かすことができるのです。それってきっとその場にいたら「定電圧機能ついててよかった」と思うんじゃないでしょうか。
そんな緊迫した場面でなくても、キャンプや車中泊などでもあと少し出力が足りずに動かないより、多少時間がかかっても動いた方がいい…という場面は意外にあるんじゃないかと思います。
それを時間がかかるからダメだと受け取るか、沸かせないはずのお湯が沸かせるから有能と受け取るか…の問題です。自分としては、まったく手も足も出ないより、辛うじてでも沸かせた方がいいんじゃないかと思います。
もちろん受け取り方は人それぞれですが、筆者が実際に使ってみたところでは、非常に有用な機能と感じました。それに少し変な言い方をすると、なんだかちょっと「得した」気分になるのは不思議です。「本来使えないものが使えた」という点がお得に感じるのかもしれません。
定電圧機能は小型ポータブル電源にこそ有用
2020年秋に発売された旧「RIVER」シリーズに初めて搭載されてお目見えした「X-Boost」機能ですが、「RIVER」以後の新モデルには「DELTA」シリーズも含めて全モデルに搭載、展開されています。
2022年以降に発売の、「DELTA2」「RIVER2」「RIVER2 Max」にも搭載されています。
- RIVER2
- RIVER2 Max
- RIVER2 Pro
- RIVER Pro(旧)
- DELTA2
- DELTA Max
以上現行モデル
※2020年9月以前に発売の「EFDELTA」にはX-Boostは搭載されません。
Bluettiの各機種にも「電力リフト」機能が搭載されています。
- EB3A
- AC60
- AC70
- AC180
でも、家庭の壁のコンセントと同じ1500W以上の定格出力を持つ電源は、ほぼ使えない家電はありません。2台、3台と家電を同時使用した際に「どこまで出力し続けられるか」という点で、その限界を引き上げる効果として「X-Boost」が効いてきます。
一方で、壁コンセントよりも定格出力が低い小型電源での「X-Boost」の有用性は、同機能によって出力可能な電圧範囲を拡大することで、本来使えないはずの家電が使える…といったところに効果があります。
そう考えると、定格出力で1500W以上をカバーできる高出力モデルより、1500W以下のコンパクトなポータブル電源にこそ有用な機能だと言えるのではないでしょうか。
筆者は現在、使い勝手の良いミドルクラスの電源としてBLUETTIの「AC70」をメインで使用していますが、AC70にも定電圧機能「電力リフト」機能が搭載されています。AC70の定格出力は1000Wあるので、家電を購入する際には消費電力1000W以内を目安にしていますが、それでもどうしても1000Wを超える製品もあります。そんな時でも2000Wまでリフト可能なので若干出力は落ちますが、使えないより使えた方が全然まし…と感じます。
電力リフトについては利用者によって感じ方が違う場合がありますが、筆者的には非常にお役立ちの機能と思っています。
お出かけ時に小型電源で済ませられるのは〇
実体験でいうと、定電圧機能付きの電源があると外出時に身軽になります。
ドライブ先に見晴らしのよい駐車スペースがあったとして、そこでコーヒーを淹れて休憩したいな…と思った時、定格で1000Wを出力できる電源は大きく重いですが、定電圧機能付きの定格出力600Wのポータブル電源は小型で軽量です。
休憩時に1~2杯のコーヒーを淹れるだけなら、多少時間は余計にかかっても小型軽量のポタ電で充分ではないですか?
ポータブル電源は、容量と出力が大きくなればなるほど大型化・重量化してゆきますので、定電圧機能付きの小さな電源で済むならその方が楽ちんです。購入コストも少なくて済みますしね。
容量がすぐ減ってしまうのではないのか?
でもそんなに消費電力の大きな家電を使ったら、すぐに容量がなくなってしまうのでは?だとすればやはり実用性がないのでは?
なんて思われるかもしれませんが、実は、電子レンジや電気ケトルはあまり容量を食いません。
家電の実際の消費電力は『定格消費電力÷60分(※)×駆動時間』で決まります。
1000Wの電子レンジで3分間レンチンした場合は「1000W÷60分×3分」なので、実際の消費電力はわずか50Wです。これなら300~500Wh程度の容量の少ない小型電源でも数回の使用なら問題ない…というわけです。
※定格消費電力は1時間で消費する電力量を表しています
RIVER MaxやEB3Aでキャンプや車中泊の1泊分の電力を賄って、その上に電子レンジや電気ケトルを定電圧機能で使う…といったシチュエーションには向いていないのは確かです。もっと容量と出力の大きな電源を持って行った方がいいでしょう。
でも、1~2回の定電圧機能を使った大消費電力家電の使用程度なら、大きく重いポタ電は不要であることもまた確かです。
この点については昨今のポータブル電源の「リン酸リチウム」化が良い方向に作用していると思います。というのも、充電サイクル500-800回程度の三元系リチウムの場合はできるだけサイクルを無駄に消費したくない…という意識が働きますが、3000回のリン酸鉄リチウムであれば毎日フル放電(サイクル1回消費)しても8年以上もの長寿命を得ています。電力リフトで大出力で電力を消費しても、ソーラーパネルなどからどんどん充電して繰り返し放電する…といった使いかたでも十二分な利用期間を確保できます。
今回紹介した定電圧機能搭載のポータブル電源
定電圧機能まとめ
あとちょっと出力が足りない…と使用を諦めていた家電が使える「定電圧機能」。
EcoFlowの「X-Boost」はかなり認知が浸透してきていますが、他社の同等機能はまだまだ知られていないのが現状です。
実際に使ってみるとそのメリットは非常に分かりやすいのですが、言葉や文字ではなかなか良さを伝えることが難しい機能でもあります。
特に「実用」目線で見た場合にはパワーがないし、時間がかかるし…という評価になってしまいますが、自分的には「本来動かせないものを動かせる」と考え、そういう機能が生きるシチュエーションを考えると、かなり優秀で有能な機能だと思うのです。
もし、初めてのポータブル電源購入で、トータルバランスに優れたモデルで試してみたい…という場合には、基本がしっかりした上に多機能でさらに「定電圧」機能も搭載されている、EcoFlow「RIVER2」シリーズ、Bluetti新世代電源「AC60」「AC70」「AC180」等をおすすめします。
それでは今日はこの辺で。