今回はポータブル電源の『パススルー』機能について調べました。パススルー充電はポータブル電源を痛めてしまうのでしょうか。メーカーへの問い合わせなども含めチェックしてみます。

『パススルー』とは、機器に給電しながら自身も充電できる、あるいは逆に自分を充電しつつ接続した機器にも給電できるポータブル電源の機能の1つです。パススルー充電はポータブル電源のダメージとなるため寿命を縮めるなどとも言われています。
そこで今回は「パススルー」そのものの機能解説に加え、なぜメーカー各社は積極利用を推奨していないのか等について考えてみようと思います。さらにパススルーを使用しても劣化しないポータブル電源は存在しないのか、あるいは、パススルー充電しても電源を劣化させない条件などを調べてみました。
パススルーってどんな機能?どんな時に役立つの?

まずは『パススルー』についておさらい。
パススルーとは、文字通りACコンセントからの給電をポータブル電源を通さずパス&スルーして電気機器へ供給する機能を指します。
「充電しながら給電」あるいは「給電しながら充電」できることをパススルー機能であると説明する場合もありますが、厳密に言えばACコンセントからの電力を電気機器にそのまま「横流し」するのがパススルー機能です。
副次的な機能として、ACコンセントからの電力量が電気機器の消費電力より上回った場合にはポータブル電源にも充電することが可能ですし、逆に、ACコンセントからの電力量が電気機器が消費する電力量に満たない場合には、ポータブル電源の蓄電からも給電することになります。
例えば、コンセントが1個しかないけどポータブル電源も充電したいしスマホも充電したいといったシチュエーションでも、パススルー機能を利用すれば両方同時に充電できるわけです。スマホへの給電量はACコンセントからの供給電力より下回るので余った分をポータブル電源の充電に回せるためです。
逆にACコンセントから1500Wが供給されている状態で、1800Wの電気製品を使うと足りない分はポータブル電源の蓄電から供給されるので、ポータブル電源の充電量が減少します。
UPS(無停電電源装置)機能
ポータブル電源の多くは、『停電時に電力供給を肩代わりする』という意味でのUPS機能を搭載しています。メーカーによって「UPS」と呼称する場合と「EPS(EcoFlowなど)」と呼ぶ場合があります。
UPSとEPSの違いは、誤解を恐れず非常に簡単に言ってしまうと「精度」の違いです。本来のUPSは精密機器にも使われる高精度の「無停電電源装置」であり、EPSは単純に「非常用電源」を意味します。UPSと表記しているメーカーでも、小さな文字で注釈として「簡易的なUPSなので精密機器には使うな」と書かれており、実質は「EPA」であることがわかります。
※本稿では本文中で「UPS」と記載した場合は、ポータブル電源の簡易的なUPSであり、機能的には実質「EPS」であると理解してお読みください。
パススルー機能を利用している最中に停電が起こった場合に、電気機器への給電を電力供給をポータブル電源に蓄えた電力からの出力に切り替えることで、停電時にも電力供給を途切れさせない「UPS(EPS)」としての機能を持っています。
このパススルー機能+UPSがどんな場面で役立つのか…というと、例えば、水槽で飼っている熱帯魚のエアー(ぶくぶく)ポンプです。留守中に停電になって何時間もエアーポンプが停止してしまっては魚が死んでしまいます。
そこで、ACコンセントに充電ケーブルを接続したポータブル電源にエアポンプの電源を差しておけば、通常時にはパススルー機能でエアポンプに給電され、万が一、停電した際にはポータブル電源からの給電に切り替わるため、停電時にもエアポンプが動作し続ける…というわけです。
例えば容量500whのポータブル電源に消費電力3Wのエアポンプの電源を接続していた場合、停電時にポータブル電源からの給電に切り替わっても、400Wh÷3W=166.7時間≒6.94日間はポンプを動作させ続けられます。

ただしポータブル電源のUPSは簡易的なもの(実質EPS)で、外部入力から内部蓄電からの供給に切り替えるのに若干時間がかかるため、精密機器や電子機器には使用できません。
メーカー各社がパススルー機能を推奨しないのはなぜ?
パススルー機能は多くのポータブル電源が標準的に備える機能ですが、製造メーカー各社ではパススルー機能の積極利用を推奨していません。
【EcoFlow】
パススルーにてご利用いただけますが、前提条件として充電電力より出力電力が小さくなくてはなりません。
デバイスの出力電力が充電電力より大きくなると、バッテリーが蓄電できなくなり電源が切れてしまいます。
長期的にこのようにご利用すると、多少バッテリーのサイクル劣化、寿命短命化に繋がります。
電池の寿命を測る指標として「サイクル」というのがあり、1サイクルは0%の状態から満タンの100%まで充電して、その電気が0%になるまで放電し切った状態を指します。一般的なリチウムイオン電池は充電が約20%~80%の状態のときに最も性能を発揮するそうです。
過度な振れ幅(100%~0%)はバッテリーに負担がかかります。
例えば:スマホに充電しながら、ゲームなどを操作するのをおすすめしないと同様です。
パススルー使用によって消耗が大きくなる場合がございますので、頻繁にパススルー使用をしないようにお願いいたします。
(→EcoFlow JP)→訂正
【Jackery】
何かの機器へ給電をしながらポータブル電源本体への充電を行うパススルー充電につきまして、使用は可能ですが、前提条件として充電電力より出力電力が小さくなくてはなりません。
デバイスの出力電力が充電電力より大きくなると、バッテリーが蓄電できなくなります。パススルーでの使用は常時続けているとバッテリーに負荷がかかるため推奨はしません。
(→Jackery helpcenter)
【BLUETTI】
本製品はパススルー充電に対応していますが、バッテリー長持ちさせる場合は推薦しません。(→BLUETTI Amazon EB70)
【EENOUR】
現在EENOUR製品の中で、ポータブル電源に充電しながら他のデバイスに給電することは出来ます。充電中の給電は電池の劣化に繋がりますのでご注意ください。(→EENOUR FAQ)
ご覧のようにメーカー各社ではパススルーを使用すると電源の劣化を招く…といった記載が多く見られます。これはどういう理由によるものでしょうか。
それは、EcoFLowとJackeryの記述にヒントがあります。
両社は『給電する電気機器の消費電力(出力電力)がACコンセントからの電力量(充電)を上回らないこと』をパススルー利用時の注意点として挙げています。
では、出力電力が充電を上回った場合はどうなるのか、逆に充電が出力電力を上回ったらどうなるのか…を考えると、推奨しない理由がよくわかります。
出力電力が充電を上回るケース
三元素系でも、リン酸鉄系でも、リチウムイオン電池は「フル放電」「フル充電」を嫌う性質は共通だ…ということがまず大前提として念頭に置いて以下をお読みください。
出力電力が充電を上回ると、ポータブル電源の蓄電から不足分を給電してしまうため、いずれポータブル電源の充電量が枯渇してしまいます。この状態がEcoFlowの言う『デバイスの出力電力が充電電力より大きくなると、バッテリーが蓄電できなくなり電源が切れてしまいます』です。
給電が充電を上回った状態が長時間続くと、いずれポータブル電源の充電量は底をつき「フル放電(電池残量0%)」となるため、ポータブル電源は大ダメージを負ってしまうのです。ゆえに必ず「給電が充電を下回る」状態でのパススルーの使用を推奨しているという訳です。
充電が出力電力を上回るケース
逆の「フル充電(充電量100%)」も同様にポータブル電源にダメージを与えます。
出力電力が充電量を下回る状態でパススルーを続けると、余った電力がポータブル電源の電池にも蓄電されてゆきいずれ充電量が満タンになってしまいますが、この状況が続くと充電満タン100%の状態が長時間続くこととなりリチウムイオン電池にとっては大きなダメージとなるのです。
充電サイクルのカウントが進んでしまう
1つの事例をお話しします。以前、Ankerにパススルーについて問い合わせたことがありました。
Ankerのポータブル電源のパススルー機能に関する記載の中に「バッテリー残量94%以下の場合」という注釈があり、このことについて問い合わせました。
質問:『「バッテリー残量94%以下の場合」とありますが、バッテリー残量95%以上の場合にはバッテリー劣化を伴うということでしょうか。』
回答:『バッテリー残量が95~100%の場合、本体の蓄電量から出力致します。こちらは100%状態を維持した場合、リチウムイオン電池の仕様上バッテリーに高負荷がかかり劣化が速まってしまう為、それを抑える仕組みとなっております。』
この回答を実際の動作に置き換えると以下のようになります。
- 前提:充電量が出力電力を上回る場合は、出力しなかった余った電力はポータブル電源の充電に使われる
- ポータブル電源が充電されてゆき、バッテリー残量が95%に達するとポータブル電源のシステムは満充電をさけるためにポータブル電源の蓄電量から出力するようになる
- 蓄電量から出力して徐々にバッテリー残量が減少して94%まで下がるとふたたびパススルー状態となり、ふたたび95%になると蓄電量からの出力に切り替わる
上記が繰り返される中で、蓄電量からの出力が合計100%に達した時点で「充電サイクル:1」がカウントされてしまうため、これを延々繰り返してしまうことで充電サイクルを無駄に消費して、どんどん寿命をすり減らしてしまうことになります。
この質問はリン酸鉄リチウム電池採用の電源に対して行ったものなので、1回の充電サイクルのカウントが進んだところで1/3000なので大ごとにはならないのかもしれませんが、理屈で言えば、無駄に寿命を減らしていることになります。
※「充電サイクル」や「バッテリー寿命」について分かりやすく解説している記事もご参照ください。
パススルーを使用しても劣化しない条件は意外に狭い
ここまでをまとめると、パススルー充電を使ってもポータブル電源が劣化しない条件が見えてきます。
この条件を両方とも満たすのであれば劣化を伴わないパススルー充電が可能です。
- 充電電力より出力電力が小さいこと
- ポータブル電源の充電容量が満充電・フル放電でないこと
(1)と(2)を両方クリアする場合には、ポータブル電源でパススルー機能を使って、充電しながら放電しても劣化することはありません。
ただし(1)と(2)は二律背反の関係にあります。
なぜなら、
(1)の場合、充電電力が出力電力より大きいということは、余った電力が電源にも充電されてゆくことになるので、いずれ(2)に反する状態にならざるを得ません。ポータブル電源はいずれ充電量満タンになっててしまうということです。
また、
(2)満タン状態でパススルー機能を使うと、電源に充電し切れない分を電源から放出(出力)せざるを得なくなります。
充電量が出力電力を上回った状態が推奨されているが、その状態を続けていると、余剰電力で電源が充電→満充電→蓄電量から出力→出力して減った分を充電→満タン→蓄電量から出力…と延々と繰り返すこととなり、それは無駄に「充電サイクル」を消費して寿命を縮めていることになるわけです。
一方、充電電力より出力電力が上回る場合には、ACコンセントからの入力では電気製品が求める電力に足りないため、電源からも出力することになりますが、これを長時間続けると、電源の容量はどんどん減って空っぽになってしまいます。これもまた大ダメージです。
これらを総合すると(1)と(2)の条件を同時にクリアしていて、電源が劣化しない状態でのパススルー機能が使えるのはごく限られた条件下の短時間の利用であることになります。
充電電力と出力電力がまったく同じ…という稀有な状態を除き、さらに(1)と(2)を同時にクリアできる短時間を除けば、パススルーはいずれポータブル電源を劣化させる要因になることになります。
このあたりが、メーカーがあまりパススルー充電機能を表立って推奨しない理由なのかもしれません。
ポータブル電源でパススルー機能を使用する場合には、満充電やフル放電状態にならないよう十分に注意しながら、短時間の利用で済ませるべき…ということになりそうです。パススルー機能の利用中は、ポータブル電源の充電量をこまめにチェックすることが重要と言えそうです。
ただ、昨今のポータブル電源はリン酸鉄リチウムイオン電池採用が進んでおり、そもそも充電サイクル3000回以上の長寿命を得ていますので、頻繁には起こらない停電時の「UPS(EPS)」によるパススルー充電機能をさほど気にする必要はない…とも言えるのかもしれません。
充電サイクル500~800回だった三元系リチウムバッテリーでは数回のパススルーによる充電サイクルの無駄遣いも捨て置けませんでしたが、1/3000と考えれば許容できるのかもしれません。ただしリン酸鉄であっても「フル放電」「フル放電」、特に「フル放電」が大ダメージであることは変わりませんので避けられるなら避けた方がよいのは確かです。
パススルーはポータブル電源を劣化させる まとめ
今回は、過去のポータブル電源のパススルーに関する記事のリニューアル版として内容をブラッシュアップして再リリースしました。
パススルーやUPS(EPS)機能は便利なものですが、あまり多用するとポータブル電源を痛めてしまい寿命を短くしてしまう可能性があることがわかりました。
でも、充電サイクル3000回超のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーなら、滅多に起きない停電時のパススルー機能に目くじらを立てることもないようにも思います。
それでは今日はこの辺で。
当ブログの管理人KAZです。
モバイル通信やガジェット関連、アウトドア関連のフリーライターをしています。2020年3月、コロナによる緊急事態宣言直前に購入した小型バンコン「アルトピアーノ」でバンライフに目覚め当ブログを立ち上げました。